日本刀ってどうやって作るの?
梨楽庵

島根県奥出雲町の「日刀保(にっとうほ)たたら」で唯一、日本刀の原料の玉鋼が作られています

日本刀の製作過程です(安来市和鋼博物館)
たたら製鉄による鉄づくりに興味を持つまでは、日本刀がどうやって作られるのかほとんど関心はありませんでした。しかし、鉄穴流しがきっかけとなり、たたら炉による鉄づくりの歴史に引き込まれてからは、俄然、日本刀の作り方を知りたくなったのです。
幸いなことに、安来市の「和鋼博物館」には、日本刀の制作工程の説明文と制作過程ごとの日本刀が展示されていました。さらには、ビデオ録画によって日本刀の制作の様子をじっくりと視聴することができました。私は日本刀に関しては全くの素人ですが、ブログ取材で得たにわか勉強の一端をお伝えしたいと思います。
これまで見てきたように、日本刀の主原料は「玉鋼(たまはがね)です。玉鋼は熱処理をすることで軟らかくなり、伸びやすい性質があります。さらには、折り返して鍛錬することで、粘り強くなり、研いで磨くときれいな刃文が現れる性質もあるようです。

玉鋼特級です。日本刀には、特級と1級の品質のものが使われます
今から48年前の1977年(昭和52年)、(財)日本美術刀剣保存協会によって、島根県奥出雲町に日本で唯一たたら炉による鉄づくりができる「日刀保(にっとうほ)たたら」が再建されました。現在も、毎年湿気の少ない冬期に2回程度“鉧(けら)押し”製法による操業が行われています。生産した玉鋼は、日本全国の刀匠(とうしょう)に届けられ、日本刀が制作されるとともに、技術の伝承が図られています。2017年(平成29年)の調査によると、日本には188名の刀匠がいるそうです。
それでは、簡単に日本刀の制作過程を説明します。
1.玉鋼→水べし→小割り

小割りの様子です
玉鋼を1000℃近くの温度で熱し、金づちでたたいて厚さ5mmほどの平らな形に整えます。次に、板状になった玉鋼を小さく割って、割れ方や断面の様子を見て品質を見極めます。
不純物が少ない玉鋼は硬い性質があるので、日本刀が完成したときの「刃」の部分になる“皮鉄(かわがね)”として使われます。軟らかい性質の玉鋼は、日本刀の芯(しん)の部分になる“心鉄(しんがね)”として使われます。

小割りした玉鋼を積み重ねています

藁灰(わらばい)や泥水をかけて空気を遮断します
2.積沸し(つみわかし)
小割りして質がそろった玉鋼をひとつのかたまりにする作業が「積沸し」の作業です。小さな一片一片の玉鋼を積み上げて、およそ1300℃に熱して、金づちでたたくことでくっつけていきます。
また、玉鋼を熱するときは、ワラを燃やしてつくった灰や、泥水をかけて空気を遮断します。玉鋼の表面が空気に触れると不純物ができてしまうので、それを防ぐための作業です。

熱した玉鋼に切り込みをいれます

折り返して重ねてさらにたたきます
3.折り返し鍛錬
玉鋼(はがね)のかたまりを熱し、金づちでたたいて薄くのばします。
それを半分に折り返し、また、たたいて伸ばします。金づちでたたくことによって、不純物が火花となって飛び散っていきます。
玉鋼は、熱することと、金づちで鍛錬を繰り返すことで、強さと軟らかさを兼ね備えた状態に変化していきます。皮鉄(かわがね)は十数回、心鉄(しんがね)は5,6回折り返し鍛錬を行います。
折り返し鍛錬を行うと玉鋼の中に鋼(はがね)の層が生まれます。この層が、日本刀が完成したとき、刀身の模様となって表れ、日本刀の美しさを生み出しています。


心鉄(しんがね)を皮鉄(かわがね)で包み込みます
4.甲伏せ(こうふせ)
刃の部分となる“皮鉄(かわがね)”と、芯の部分となる“心鉄(しんがね)”を組み合わせる作業です。まず、皮鉄を熱してUの字に変形させます。次に、U字の溝に心鉄をはめ込み、一緒に熱して、金づちでたたいて一体化させます。

5.素延べ(すのべ)
皮鉄と心鉄が一体化した鋼(はがね)をさらに熱して、金づちでたたいて延ばしながら日本刀の形にしていく作業です。

6.火造り(ひづくり)
素延べによって細長い棒状になった鋼(はがね)を熱して、金づちでたたきながら、日本刀の“立体的な形づくり”を行う作業です。日本刀をよく見ると、刀身の中央部分が分厚くなっています。この部分を“鎬(しのぎ)”と言います。鎬(しのぎ)から刃先にかけては緩やかに細くなっています。金づちで打ちつける角度を考えながら調整していきます。
7.土置き(つちおき)
土置きは、日本刀の刃の部分に見られる“刃文(はもん)”の模様の形を描く作業です。“焼刃土(やきばつち)”という土を薄く塗る部分と厚く塗る部分に塗り分ける作業です。
8.焼き入れ(やきいれ)
日本刀の刃(は)の部分を硬い鋼(ながね)に変化させる作業です。焼刃土(やきばつち)を塗った鋼(はがね)を800℃ほどに熱してから、水につけて冷やします。素早く冷やすことで、土を薄く塗った部分は硬い鋼に変化します。土を厚く塗った部分は、少しゆっくりと冷えて、刃の部分よりも軟らかくて、しかも折れにくい性質の鋼に変化します。
9.銘切り(めいきり)
焼き入れが終わると、曲がりや反(そ)りなどを直して、荒とぎをします。最後に、キズや割れがないかを確認し、作者の銘(めい)を入れます。
10.研ぎ(とぎ)
研ぎを専門にしている職人を「研師(とぎし)」と言います。刀を研師に研いでもらうことで、切れ味が良くなると同時に、刃文(はもん)が美しく見えるようになります。実際の日本刀の製作過程はさらに細かくなりますが、私は専門家ではありませんので、お許しください。
日本の歴史に武士が登場して以来、刀は重要な武器になりました。膨大な数の武士たちが刀を持っていたはずです。とすると、膨大な数の刀が製造されてきたはずです。だとすると、膨大な量の玉鋼が必要だったはずです。
玉鋼の生みの母である、鉄の塊の鉧(けら)から一体どれくらいの玉鋼を取り出すことができ、最終的に何本、あっ、刀の数え方は振(ふ)りと数えます。最終的に、何振りくらいの刀がつくれるのだろうか?たたら製鉄を調べ始めた当初からこの疑問が頭にありました。
答えは三日三晩の一回の操業で、2.5トン~3.5トンの鉧(けら)から日本刀400振り~500振りが作れる量の玉鋼を取り出すことができるそうです。このことを知った時は本当に驚きました。「なるほど、そんなに作れるのか。そうでないと戦国大名たちの需要に応えることができないよね」合点!でした。

この鉧(けら)から400振り~500振りの日本刀をつくることができるのです
今回のブログでは、日本刀の制作過程について報告しました。
*「鎬(しのぎ)を削る」という言葉があります。鎬とは、日本刀の側面の山形に高くなっている筋のことです。日本刀は切れ味を鋭くするためには刃を薄くする必要がありました。同時に、簡単には折れないように強固につくることが求められました。そのために、刀匠たちが創意工夫して考えた形状が鎬の部分なのです。
激しく戦うことを「鎬を削る」と言います。この言葉の語源は、侍同士が日本刀で戦った時に、鎬が削れるほど激しく切り合う様子からきています。今の時代は日本刀で切り合うことはありませんが、スポーツ選手や企業同士が激しく争っている様子を表現する「慣用句」となっています。
