紙芝居『いなばのしろうさぎ』
梨楽庵

神話「因幡の白うさぎ」で有名な“白兎海岸”です。東西16㎞の鳥取砂丘の西の端になります。海に見える島が白うさぎがいたとされる淤岐(おき)ノ島です

鳥居の奥に白兎神社があります。出雲国の大国主命(おおくにぬしのみこと)と因幡国の八上姫(やかみひめ)との縁を結んだ「因幡の白うさぎ」が祭られています。日本で最初のラブストーリーの発祥地として、2010年に“恋人の聖地”に認定されました。今回のブログでは、紙芝居で因幡の白うさぎの神話を楽しんでいただきたいと思います

1.むかしむかしの大むかし、いなばの国の海辺の砂浜で、一ぴきのうさぎが毛をむしられ、まるはだかになって、泣いておりました。すると、そこへ、たくさんの神様が連れ立ってとおりかかりました。
いなばの国に住む、ヤカミヒメと言う美しいおひめさまに、結婚を申し込むために、はるばる旅をして来たのです。神様たちはうさぎを見つけて立ち止まりました。
「これ、うさぎ。まるはだかではつらかろう。元のようにふさふさした毛のある体にもどりたかったら、まず海の水で体をよく洗い、潮風の吹く所で乾かして、高い山のてっぺんで寝ているのじゃ。そうすれば、きっと元通りの体になるぞ」そう言って、大きな声で笑いながら行ってしまいました。

2.うさぎはよろこんで、神様たちのいう通りに、海の水で体を洗い、潮風で乾かして、お日様のよく当たる、高い山のてっぺんに寝ころびました。
するとどうでしょう。元通りになるどころか、海の水で洗い、潮風で乾かした体が、強いお日様に焼かれて、じりじり、ひりひり。その痛いこと苦しいこと。あまりのつらさにころげ回ったとたん、うさぎは山から真っ逆さま。神様たちのいたずらに気がついたときには、うさぎの体は前よりいっそう真っ赤にはれ上がっていました。

3.うさぎが赤い目をますます赤くして泣いていると、こんどは大きな袋をかついだ神様がたった一人で通りかかりました。うさぎにいたずらをした神様たちの、一番下の弟で、名前をオオクニヌシノミコトと言います。
「これは、これは、うさぎさん。こんなに真っ赤にはれ上がった体をして、いったいどうしたんだね。さあ、わけを話してごらん」オオクニヌシノミコトの声がとてもやさしかったので、うさぎは安心して話し始めました。

4.「私は海の向こうに見える淤岐(おき)ノ島に住んでいました。島には友だちが一ぴきもいないので、さびしくてたまりません。毎日、毎日、海辺に出てはいなばの国をながめて、向こうに渡れたらいいなあと、そればかり考えていました。でも、泳げない私がどうして海を渡ることができるでしょう。あきらめかけていたとき、ふと、いい考えを思いつきました。私は岩の上にすわって、サメが通りかかるのを待っていました」

5.「しばらくすると、一ぴきのワニザメが波のまにまにヒレを立てて泳いでくるのが見えました。『おうい、ワニザメくん。よかったらちょっとぼくの話を聞いてくれないか。とてもおもしろいことを考えたんだ』『なんだいい、うさぎくん。そのおもしろいことって』ワニザメが岩のそばまでやって来たので、私は言いました。『君のなかまとぼくのなかまと、どっちが多いか、比べっこをするのさ』『そいつはおもしろい。早速なかまを集めてこよう』

6.「ワニザメはそう言って海に姿を消すと、まもなくたくさんのなかまを連れてもどってきました。『どうだい、うさぎくん。ぼくのなかまがどんなにたくさんいるか、わかっただろう』『たしかにたくさんいるね。でも、ぼくのなかまは、こんなもんではない。もっとたくさんいるよ』『そいつは確かなことかい』『うそなもんか。じゃあ、数えてみよう。君たち一列に並んでみてくれたまえ』

7.「ワニザメが一列に並ぶと、長い長い橋が、淤岐(おき)ノ島から海の向こうのいなばの国までかかりました」『それではぼくがきみたちの背中の上を踏んで何びきいるか数えてあげるからね』私はワニザメの背中の上を、『一ぴき、二ひき、三びき、四ひき……』と数えながら渡り始めました。いったい、いくつまで数えたのでしょうか。あんなに遠くに見えていた、いなばの国が、もう目の前です。私はすっかりうれしくなって、思わず、本当のことを言ってしまいました。『はははは、なんてぼくは頭がいいんだろう。なかまの比べっこなんて、大うそさ。ぼくはきみたちの背中を橋のかわりにして、いなばの国まで渡りたかったのさ。やあい、ワニザメのおバカさん』

8.「怒ったワニザメたちは、いなばの国まであとひとっ飛びというところで、私に飛びかかり、よってたかって毛をむしり取って、私をまるはだかにして行ってしまいました。あまりの痛さに泣いていると、神様が通りかかって、『海の水でよく洗い、潮風で乾かして、山のてっぺんに寝ていたら、元通りになるよ』と言ったのです。でも、その通りにしたら、このしまつ。元通りになるどころか、ますます痛みがひどくなるばかり…。きっと、ワニザメをだましたばつが当たったんです」

9.「かわいそうに。もう十分にばつは受けたんだ。今度は本当に元通りにしてあげよう。さあ、私についておいで」オオクニヌシノミコトはうさぎを川へ連れて行きました。「さあ、川の水で体についた塩をよく洗い、流しなさい」うさぎが言われた通りにすると、痛みがずっと楽になりました。オオクニヌシノミコトは川のほとりに生えているガマの穂を抜いてきて並べ、その上にうさぎを寝かせて、ガマの穂で、やさしく体をなでてやりました。すると見る間に傷がなおりました。

10.白いふわふわした毛が元通りに生えて、うさぎはすっかり元気を取りもどしました。「あなたは心のやさしい神様です。ヤカミヒメはきっとあなたのおきさきさまにおなりですよ」そう言うと、うさぎはうれしそうに、なかまがいる野原へ向かってかけて行きました。うさぎの言った通り、美しいヤカミヒメは、後にオオクニヌシノミコトのおきさきさまになりました。心のやさしいオオクニヌシノミコトは、いじわるな神様たちを追い払って、いずもの国を末永くおさめました。

淤岐(おき)ノ島の手前側の海面が黒っぽく見えています。この地形は“波食棚(はしょくだな)”と呼ばれています。波による浸食と風化作用によって“海食崖(かいしょくがい)”が陸地側に後退した結果、前面に形成された平坦な地形のことです。
波食棚は干潮時には海面上に現れるので、サメ(ワニザメ)の背中のように見えます。うさぎがいたとされる島は諸説があるようですが、この景観が最も神話の地にふさわしいように感じられませんか

この地形が“海食崖(かいしょくがい)”です。海に面した陸地が波による浸食や風化作用によって形成された海岸の急な崖(がけ)のことです。今回ブログ取材をするまでは、白兎海岸は国道9号線を通った時に、車窓から眺めているだけでした。初めて砂浜に下りてこの岩場の地形に驚きました。
改めて、この世の中の事象や現象は、知っているように思っているだけで、本質を何も理解していない自分に気づかされ、恥ずかしい気持ちになりました。人生、まだまだ学ぶことがたくさんあるようです。
最後になりましたが、紙芝居の絵の作者は私の実姉です。姉は絵手紙が趣味で、梨楽庵の看板やジャム三姉妹のシール絵など、たくさんの作品を制作しています。梨楽庵が農家民宿としてオープンできたのは姉の画才のおかげです。姉には感謝してもしきれません。
