おいしい!鳥取の水
梨楽庵

ふるさとの山、伯耆富士「大山(だいせん)」
鳥取県の水がおいしいということは感覚的に感じていましたが、地元紙を読んでいて、鳥取県民にとってはうれしい情報を見つけました。大手家電メーカーのパナソニックが令和6年の1月に水道水に関する全国調査を実施したそうです。
47都道府県100人にインターネットで調査依頼をし、合計4700人の調査結果が発表されました。その中の「住んでいる地域の水道水が美味しいと感じるランキング」の項目では、何と鳥取県(78%)が第1位だったのです。2位は富山県(77%)、3位は新潟県(74%)と山梨県(74%)でした。
安心安全なミネラルウォーターを追求し販売しているサントリーは、自社の「天然水」の水源であり、採水地を全国から4か所選定しています。最初の選定地は、南アルプス甲斐駒ヶ岳のふもと山梨県北杜市白州町で、2番目は阿蘇山のふもと熊本県嘉島町でした。そして、驚くことに3番目が鳥取県江府町だったのです。
サントリーのホームページには「山梨県白州、熊本県阿蘇に続く天然水第3の水源。日本全国、名水の地をあちこち行脚し、遂にたどりついた場所は、鳥取県の奥大山でした。(中略)豊かな自然と、清冽な水があふれる理想の水のふるさとです。」と、最大限の賛辞で紹介されています。第4は、北アルプスのふもと長野県大町市にあります。
「奥大山」とは、中国地方の最高峰「大山」(だいせん)の南側で、鳥取県と岡山県との県境地域の呼び名です。奥大山一帯は広大なブナの森が生い茂る場所であり、冬期に豪雪地帯となるこの地域の地下には豊富な天然水が蓄えられているのです。
鳥取県においしい水が存在する主な理由は、特異な自然環境と第二次世界大戦後の社会環境が影響していると考えられます。鳥取県の北部は日本海に面していますが、東部と西部と南部の大部分は中国山地に囲まれています。
この中国山地は冬季には豪雪地帯に変貌します。降り積もった大量の雪は地下水として蓄えられ、春の雪解け水は農繁期を迎える農家の人々にとっては恵の水となってきたのです。

豪雪は春には雪解け水となって麓の田畑を潤します
第二次世界大戦後、特に1950年代後半から日本は高度経済成長期を迎え、急速に経済が発展しました。しかし、発展の恩恵は日本列島の太平洋側に集中し、全国各地の若い世代は大都市圏へ就職口を求め、鳥取県も急速に過疎化が進みました。
工業化も企業誘致も遅々として進まず、鉄道の高速化も高速道路の建設も先延ばしにされてきました。今世紀中に新幹線が山陰地方を通ることはまずないと思います。しかし、工業化が進まず、経済発展に乗り遅れたからこそ鳥取県の自然環境は破壊されず、「おいしい水」も守られてきたのです。
今から40年前、1985年(昭和60年)3月に、環境庁は日本全国784ヶ所の候補地から100ヶ所の湧水や河川を日本名水百選、いわゆる“昭和の名水百選”として選定しました。その目的は、全国各地に存在する清らかな水の再発見に努めるとともに、広く国民に紹介することで、地域住民自らが優良な水環境を積極的に保護していこうとする意欲を喚起することでした。
鳥取県内では1ヶ所が選定されました。それは米子市淀江町高井谷にある「天の真名井」(あめのまない)です。現地の説明板には次のように書かれています。

「天の真名井とは、古事記や日本書紀において、高天原(たかまがはら)の神聖な井戸を意味し、神聖な水につけられる最高位の敬称です。(中略)この天の真名井泉川(いずみがわ)の下流の宇田川平野には、弥生時代の角田(すみだ)遺跡があり、すでに二千年もの昔から人々の生活と耕作の水源として大切にされてきたことを物語っています。(後略)」
高井谷集落の名物は「天の真名井」だけではありません。豊富な湧水によって回される水車小屋の風景が懐かしい日本の原風景として地域住民のもう一つの誇りだったのです。
しかしながら、3基あった高井谷集落の水車は近年の豪雨による増水や経年劣化のために壊れてしまったそうです。私が初めて水車小屋を訪ねたのは20数年前のことです。背丈以上もある大きな水車がゆっくりと回る姿は堂々としていて見ごたえ十分でした。
昨年に朗報が飛び込みました。高井谷の自治会が立ち上がり、水車小屋を修復し、復活させたのです。リニューアルした水車小屋を早く見てみたいと思いながらも、農繁期と梨楽庵のお客様の対応が重なり、機会を逃していましたが、6月10日にブログの取材のために大山に出かけた折に立ち寄ることができました。「天の真名井」の水は以前と変わらず清らかで、真新しい水車小屋は何故かかわいく感じました。

令和6年2月に水車小屋が復活しました

郷愁が感じられる日本の原風景です
今から17年前、2008年(平成20年)6月、環境省は全国各地の湧水、河川、用水、地下水の中から100ヶ所を選び、“平成の名水百選”を選定しました。昭和の名水選定当時とは社会情勢が大きく変化した状況を踏まえ、水環境の保全の一層の推進を図ることが目的でした。
特に、地域住民等により持続的な水環境の保全活動が積極的に行われている所を「平成の名水百選」として選定し、昭和の名水百選と合わせて名水200選としたのです。
鳥取県内からは3ヶ所が選定されました。鳥取市布施にある“布施の清水”と西伯郡伯耆町にある“地蔵滝の泉”と東伯郡湯梨浜町にある“宇野地蔵ダキ”です。これらは全て湧水です。

“宇野地蔵ダキ”は梨楽庵のある湯梨浜町にあります。梨楽庵からは車で5分ほどの所にあります。冒頭で紹介しましたように、鳥取県の水道水は「おいしい」です。もちろん湯梨浜町の水道水もおいしいのですが、こんなにも身近な所に「平成の名水」があるので、毎月2回の水汲み当番を私は楽しみに務めています。
梨楽庵で食事時にお客様にお出しする「水」は全て宇野地蔵ダキの名水です。コーヒーも同様です。毎年も5月から6月にかけて大阪からの修学旅行生を民泊で受け入れていますが、「おいしい」と絶賛しています。1泊の間に一人で2ℓ入りのペットボトルを1本飲み干してしまう子もいたのでビックリしました。
最後に、ブログを書くにあたって参考にさせていただいた『おいしい水の郷 鳥取』の著者:祝部大輔(ほうりだいすけ)医学博士の「はじめに」の文章の一部を紹介してブログを閉じます。
「1961年4月12日、若き宇宙飛行士のユーリ・A・ガガーリンは、ボストーク1号で地球を振り返ったときの感動を「地球は青かった」という言葉で表しています。正に、地球は全体の表面積の72%を海が占めている「水の惑星」です。(中略)
そして、そのうちの約97.5%が海水で、残りの約2.5%が淡水です。さらにこの淡水の約70%が南極と北極地域の氷として存在するので、我々が直接利用できる水は、川や湖の水0.007%になります。これは、例えれば地球上の全ての水をバケツ100個分とすると、私たちの飲める水は、コップ1杯に満たないことになります。(後略)」
おいしい水について調べたことで、鳥取県に住み、四季折々の季節の移り変わりを愛(め)でながら、農作業に励みつつ、梨楽庵をご利用いただいたお客様とひと時の交流を楽しむことができる今に、とても感謝しています。まだまだ続く猛暑を名水を冷やして飲んで、乗り切っていこうと思います。
