朋あり遠方より来る
梨楽庵

孔子の有名な言葉に、「朋あり遠方より来る、また、楽しからずや」という一文があります。国語の時間に必ず学ぶ言葉なので、ご存知だと思います。
大意は、「心の友と呼べるような親友が遠くから訪ねて来てくれるのは大変うれしいものです。一緒にお酒を酌み交すと、会話も弾み、こんなに楽しいことはないですよ、ね」という感じに私は解釈をしています。
一昨年の11月中旬に、広島市在住の50代の男性から宿泊予約のメールが届きました。宿泊予定日は12月28日の一泊です。「年末の時期ですが、仕事の関係でこの時期しか出かけることが難しいのですが、大丈夫でしょうか」という内容のメールでした。1名のみの宿泊はお受けしたことがないので一瞬だけ躊躇しましたが、「よろしいですよ」と返信しました。
予約の主は、私が鳥取市内の某中学校に勤務していた時の教え子のY君でした。教え子といっても担任したこともなく、授業を受け持ったこともありません。Y君は卓球部の部員でした。
勤務した中学校は、生徒数が1000人を超えるマンモス校だったので、名目上の部員数は、男女で100名近くだったように記憶しています。私の専門はバレーボールだったのですが、部活運営の関係で、私は年上の女先生と二人で男女卓球部の顧問をしていたのです。
Y君は男子卓球部の主力選手でしたが、私が担当した学年より1学年上の生徒でしたので、ごく普通の会話以外は言葉を交わすことはありませんでした。Y君が中学を卒業してからは、音信不通状態でした。
あれはY君が大学生の頃だったように思います。Y君から年賀状が届き、彼が京都大学で勉学に励んでいることを知りました。それ以来、年賀状だけの交流が続いていたのです。
予約日当日、玄関でY君と再会しました。失礼ながら、私は全く顔を覚えていません。いや、覚えてはいるのですが、中学時代のY君とは別人になっているので、初対面の人と会っている感覚でした。
Y君は広島市内に住んでいて、大手企業に勤務していました。結婚し、奥さんも子どもさんもいるのですが、今回は家族の日程調整がつかなかったので、一人旅だったようです。
「Y君、年賀状のやり取りしかしていなかったのに、よく来てくれたねえ。どうしてなの?」と尋ねると、「はい。先生が何か楽しそうなことをされているので、いつか行ってみたいなあ、と思っていたからです」
「Y君、ありがとう。農家民宿を立ち上げてから、いろんな方から“いつか行ってみたい”という声は聞くんだけど、なかなか来てはもらえないね。今の時代、みんなが忙しいからね」
Y君は一人客なので私が相客をすることにしました。Y君は下戸でしたが、お酒がなくても会社の宴会にも参加するし、宴会の雰囲気は嫌ではないとのことでした。私は上戸、一日の極上の楽しみが夕食時の晩酌なので、下戸のY君との相客は大丈夫だろうかと心配でしたが、全くの杞憂でした。
私が学生時代を広島市で過ごしていたこともあり、会話は大いに弾みました。カープのこと、サンフレッチェ広島の新しいスタジアムのこと、Y君の学生時代のことや家族のことなど、会話が途切れることはありませんでした。驚いたことの一つは、奥さんはお酒が強い、ことでした。

お土産にいただいた紙袋です。何が入っているのかな?

「はて?」これは何だと思いますか?

ミルクチョコレートとホワイトチョコレートの焼き菓子が入っていました。美味しかったです。スチール缶は小物入れになりました
「Y君、奥さんはお酒が大好きなのに、お酒の飲めない君とよく結婚したね」と話を向けると、「いや、彼女は大丈夫みたいですよ。ドライブ旅行に出かけても、酒の飲めない僕が運転してくれるので、昼間から大好きなワインが飲めるって喜んでいますから」
「奥さん、お酒が大好きなんだね。家系かなあ」「そうかもしれません。彼女のお父さんもお酒が強いですから。初めて彼女の実家に行ったとき、お父さんからお酒を勧められたんですが、僕はすぐに酔ってしまって…」何と、彼女の実家は東広島市だったのです。ご存知ですか、東広島市は全国有数の酒処なのです。
午後6時30分スタートの夕食は、瞬く間に時が過ぎ、デザートを食べ終えた時には、すでに午後9時を過ぎていました。梨楽庵のお風呂は温泉ではありませんが、Y君は夕食前と後にお風呂に入り、ぐっすりと眠ることができたようでした。
翌朝の朝食も私が相客をしました。朝食のイチ推しは「スタミナ納豆」と地元の東郷池産の「しじみ汁」です。白いご飯にたっぷりとスタミナ納豆をかけて食べると、もうたまりません。私の大好物でもあります。
Y君も納豆ファンだったので、美味しいと言って食べてくれました。朝食後、泊駅まで車で送ってお別れしました。天気予報では大雪情報も流れていたので、Y君は車ではなくJRを利用していたからです。
冬場の時期なので、農園にお連れすることができません。Y君は鳥取市生まれなので、鳥取観光も必要がありません。Y君と共に過ごした時間は夕食と朝食の時だけでした。しかし、Y君の圧縮された人生ドラマに触れることができ、とても豊かな時間を過ごすことができたように感じました。
この豊かさは、満足感はなんだろう、と考えると、これこそがリアルの時間を共有したことから生まれる喜びなんだと実感しました。メールやオンラインやSNSでは絶対に得られない感覚だと私は思います。
「朋あり遠方より来る、また、楽しからずや」Y君は朋ではありませんでしたが、年賀状のやり取りの継続が“ご縁の糸”となって、再会の機会を与えてくれたのかもしれません。Y君、ありがとう!とっても楽しかったよ!

カープの3選手のファイルも入っていました

カープ団扇も入っていました。シーズンが始まったらマツダスタジアムに行って応援したいなあ。Y君は数日遅れの「サンタのおじさん」みたいでした。再度、ありがとうございます。
〈 追記 〉
一昨年の出来事ですが、人生の機微を感じた再会だったので、掲載しています。
