ルーティンの力
梨楽庵

ルーティンいう言葉を多くの方がご存知だと思います。ルーティンとは、英語で「routine」と書きます。その意味は、いつもの手順とか、決まりきった仕事、日課などと訳されています。このルーティンという言葉が一躍有名になったのは、2015年、イングランドでラグビーワールドカップが開催された時でした。元日本代表の五郎丸選手のキック前の動作がきっかけでした。
五郎丸選手は、キックをする前には必ずいつも同じ動作を繰り返します。最初は、ボールの感触を確かめながらボールを2回回転させてボールを置く位置を決めます。次には、助走のために後ろへ3歩下がり、左へ2歩移動します。最後は、少しだけ体勢を低くして、ボールをねらった方向へ押し出すイメージで一気に蹴り出します。
キック前の祈るような独特のポーズは、五郎丸ポーズとして大ブームとなりました。五郎丸選手がプレーに自信を持つようになったのは、キック前の一連の動作をルーティンとして毎日の練習の中で身につけたからです。
実は、五郎丸選手だけでなく、超一流のスポーツ選手の多くは自分にふさわしいルーティンを身につけ実行しているのです。大リーグで数々の大記録を達成したイチロー選手も、ベンチを出てバッターボックスに入り、静止して構えるまでには17種類の決まりきった動作を繰り返し、相手ピッチャーが投げる剛速球に立ち向かっていたのです。
どうやらルーティンは絶大な力を持ているようです。正しいルーティンを毎日の生活の中に取り入れると、私たち一人ひとりが持ち合わせている潜在能力が発揮されるのです。
私は大相撲の大ファンです。ここ数年で急速に力を付け、大関候補と言われる力士の一人が関脇熱海富士です。3年前、熱海富士が新入幕した頃のことです。相撲関連の番組を見ていると、熱海富士も独自のルーティンを守って場所に臨んでいました。10種類以上の決まり事があり、「ぴょんぴょんルーティン」「砂けりルーティン」「あたみんダンス」と名付けて相撲ファンは楽しんでいました。
こだわりのあるルーティンについて、その意図を記者から問われた熱海富士は、「多いかもしれませんが、すべてをやらないと何か不安なんです」と、お茶目な笑顔で答えていました。ネットで調べて見ると、熱海富士の師匠、前伊勢ヶ浜親方は、「見ているといらないようなルーティンが多すぎるような気もしますけどね」と、苦笑いされていました。
熱海富士の「砂けりルーティン」は、この変則的な動作によって土俵の砂を蹴り上げてしまい、土俵下にいる勝負審判の顔にかかり、審判部から何度か注意を受けたことがあるそうです。しかし、熱海富士は「腹に力が入る」との信念で、その後もルーティンを続けていました。しかし、現在は少し短めのおとなしいルーティンに変化しているようです。
厳しい稽古で知られる伊勢ケ浜部屋で鍛えられ、しかも、当時は横綱照ノ富士だった、現師匠の胸を借り、小兵力士ながら気迫溢れる同郷の翠富士らと切磋琢磨していれば、力をつけるのは当然だったのかもしれません。
大相撲にはいろいろな楽しみ方があります。ルーティンについて触れてきましたが、力士の土俵の動きをじっくりと見ていると、お相撲さんが最後の仕切りを終えて、タオルで顔を拭き、口に水を含み、塩を握りしめて土俵にまき散らし、腰を下ろして相手力士と立ち会うまでの短い時間の間には、すべての力士が自分独自の一連のパフォーマンスを行っていることに気がつきます。この個性的なルーティンを観察していると、力士の心の内が少しだけ見えるように感じます。
明日から、いよいよ名古屋場所が始まります。休場明けの豊昇龍と大の里の両横綱が意地を発揮し優勝するのか、関脇の4力士や小結、さらには前頭の上位にいる若手やベテランの実力者が優勝戦線にどう食い込むのか、興味が尽きないワクワク感一杯の場所になる予感がします。
考えて見れば、小学校や中学校の学校生活はルーティンの連続だと言えます。8時前後には全員が登校を終えます。1校時から学習が始まり、下校するまで定められた学習課程の中で、子どもたちは勉学に励んでいるのです。決められた毎日の学校生活の枠組みの中で、子どもたち一人ひとりが「学習のルーティン」をどれだけ意識して取り組もうとしているかがとても大事になってくるのではないでしょうか。
時間を守ることも、学習に集中することも、はっきりとした声で発表することも、元気よくあいさつや返事をすることも、学級の仲間や大人に対して気持ちの良い言葉づかいをすることも、ひとつひとつが子どもたちの生きる力や学力を伸ばすことにつながっているのです。
子どもたちには可能性の豊かな未来があります。この世に命を授けられたのは、生まれ持った個性や特性を、社会人となり、世の中に役立つ大人になるためです。そのためには小学校や中学校の義務教育の段階で「学習のルーティン」を積み重ねながら、人間の土台づくりをしていくことが最も大切なことだと思います。五郎丸ポーズを思い出して、ルーティンの大切さを再度かみしめています。

第53代横綱琴桜の土俵入りの雄姿です。横綱琴桜は鳥取県倉吉市出身です。現在の大関琴桜の祖父です。孫の大関琴桜の今場所の活躍を期待しています。
