農家民宿 梨楽庵ブログ

文藝春秋

梨楽庵

 学生時代から気になっていた月刊誌が『文藝春秋』です。時々買って読むこともありましたが、大学生といえども、社会経験の希薄な人間には難解な論文や記事が多く、目にとまったコラムだけ拾い読みしていた程度だったように記憶しています。

 社会人となり、教職生活を送るようになりましたが、日々の授業の準備や部活動の指導のために休日返上で働いていたため、教職関係に関わる書籍以外に手を伸ばす時間はなかなか生み出せなかったのが本音です。

 定年退職し、梨楽庵の起業の準備や農作業等で忙しい毎日だったものの、現職時代とは比較にならないくらい自由に使える時間が与えられました。「よし、これからは落ち着いて読書をする時間をつくろう」と決意し、農作業の合間をぬって、毎月何度か大型書店に出かけ休日を過ごすようになりました。

 行きつけの書店に入ると、いつも山積みにされた雑誌が並べられています。特徴のある表紙絵の『文藝春秋』がまた私の前に姿を現しました。買って読み始めると、やっぱり理解困難な論文や記事もありますが、私の興味関心を引きつける小論文やコラムやインタビュー記事がたくさん掲載されていることに気づくようになったのです。社会の荒波にもまれて、少しは読解力が成長したからなのかもしれません。

 9月号に内館牧子さんの「ムーンサルトは寝て待て」という新連載コラムが載っていました。冒頭の文に目が釘付けになりました。『「人は二度死ぬ」と、よく言われる。一度目は本当に死去した時。二度目は死去から時間がたち、生きている人たちの口にのぼらなくなったり、忘れられたりした時である。』

 確かにそのとおりです。コロナウイルスが暴れ狂って以来、亡くなった人を直接弔うこともできず、時間の経過と共に忘れ去り、日々の多忙感の中では、思い出そうともしなくなりました。こんな時代だからこそ、お盆や彼岸にはお墓参りをしてご先祖様に手を合わせ、心の中に生前の姿を蘇らせて感謝の祈りを捧げることが必要なのかもしれません。「人は二度死ぬ」かもしれませんが、お祈りをしながら「何度も生かす」ことができるのです。