農家民宿 梨楽庵ブログ

梅一輪

梨楽庵

     梅の花が咲き始めました。

   令和元年に植えた「しだれ梅」です。

    梅一輪 一輪ほどの あたたかさ

 2月も下旬になりましたが、先週は季節外れの高温が続き、春を飛び越して、初夏を思わせるポカポカ陽気の日もありました。地球温暖化の影響が四季の移ろいに微妙な変化を及ぼしているのかもしれません。一転して、今日からは再び冬の寒気が日本列島を被うようです。2月は冬と春がせめぎ合いながらも、少しずつ少しずつ季節は春に向けて動き始めているのです。

 先週末にわが家の果樹園に出かけ農作業を行いました。果樹園の小高い斜面の中腹には白い花が咲くしだれ梅と紅梅が植えてあります。そのしだれ梅の花が季節外れの陽気に誘われて、咲き始めたのです。三輪ほど遠慮がちに咲いていましたが、日ごとに花の数が増えていきました。

 梅の花と言えば、有名な俳句があります。「梅一輪 一輪ほどの あたたかさ」。江戸時代の前半に活躍した服部嵐雪という俳人の作で、彼は『奥の細道』で知られる俳聖、松尾芭蕉の弟子の一人です。

 この俳句には、厳しい寒さにもかかわらず、たった一輪ですが梅の花が咲いている姿をみると、ほんのわずかですが暖かさが感じられる、という意味があります。私もわが家の畑に咲いた梅の花を見ていると、かすかな春の訪れが感じられ、ぽっと、気持ちが暖かくなって来るような気がしました。

 日本人が梅の花を観賞し愛(め)でるようになったのは、奈良時代からと言われています。奈良時代には中国の政治や文化を学ぶために、当時の先進地だった中国(唐)に遣唐使が派遣され、多くの留学生や留学僧が熱心に勉強したのです。数年間中国で学んだ遣唐使たちは、日本に帰国後、様々な分野で日本の発展のために一生懸命に仕事に励んだのです。そして、中国人が梅の花を愛でる習慣は遣唐使の帰国後に貴族社会を中心に日本に広まっていったのです。

 奈良時代の歌人、小野老(おののおゆ)の「青丹よし 奈良の都は 咲く花の 匂(にお)うがごとく 今盛りなり」の歌は、中学校の社会科では必ず学習する歌です。この和歌の「咲く花」の花は桜ではなく、梅の花と言われています。咲き始めたら一気に咲き誇り、短い時間に散りゆく桜よりも、寒風の中で一輪一輪、また一輪と、ゆっくりと咲いていき、春に向かって歩みを進める梅の花の方に、奈良時代の貴族たち深い味わいを感じ取っていたのです。このことは、つらいことや悲しいことがありながらも、身近な出来事の中から小さな喜びを見つけ、前を向いて歩み続ける人間の生き方を表しているように思えます。

 「冬来たりなば春遠からじ」と言われます。しかし、春が近づいたかと思えば冬の寒気に引き戻される日々が今しばらく続きます。願わくば、梅の花のように寒さに負けずに、自分らしい小さな一輪の開花を積み重ねていきたいものです。