農家民宿 梨楽庵ブログ

大山(おおやま)それとも、大山(だいせん)?

梨楽庵

    聖なる山、伯耆富士「大山」

  冠雪の大山は圧倒的な魅力に包まれています。

    古代から伯耆国のランドマークです。

 午後6時10分から始まるNHKの番組に、地域の話題を取り上げた「いろドリ」という番組があります。先日、視聴者の疑問に答える特集番組が放送されました。その疑問とは、「大山はなぜ“だいせん”と読むのか?」という疑問でした。

 私たち鳥取県民は、子どもの頃から「大山」は「だいせん」と教わり、全く名前の意味や由来を探ることもなく、大人になっています。番組では、40代の女性と50代の男性から同じ疑問が寄せられたようです。この方たちも現在まで、大山を「だいせん」と読んで、当たり前だと捉えていたのです。

 疑問を解くために、リポーターは大山へ取材に出かけました。解決の糸口は、大山寺住職の清水豪賢さんへの取材から得ることができました。リポーターからの問いかけに、清水住職さんは次のように答えられました。「昔からこの山は神が住む聖なる山として、みんなから崇(あが)められていた山でした。そこに仏教的な要素が加わり、神だけでなく仏も一緒に住む聖なる山として、仏教の「呉音」を使った「だいせん」という読み方になったのだと考えられています。」

 疑問を解くキーワードは、「呉音(ごおん)」だったのです。漢字には「訓読み」と「音読み」の2つの読み方があります。訓読みは、もともと日本にあった言葉を漢字に当てたもので、音読みは、中国から入って来た発音をもとにしたものでした。さらに、「音読み」には、「漢音(かんおん)」と「呉音(ごおん)」のふた通りの読み方があったのです。

 漢字には訓読みと音読みがあることは日本語を学習した人なら誰もが知っていることです。しかし、音読みに複数の読み方があることは知りませんでした。番組を視聴して初めて知り、大変驚きました。呉音が先に中国から日本に伝わり、その後、漢音が伝来したそうです。例えば、「行政」の「行」という漢字は、呉音で読むので、「ぎょう」ですが、「銀行」の「行」は漢音で読むので、「こう」なのです。

 呉音と漢音について調べて見ると、以前から不思議な読み方だなあと思っていた私の疑問が解決しました。年齢や性別に関わらず、全ての人という意味を表す四字熟語に「老若男女」があります。「ろうにゃくなんにょ」と読むのですが、なぜこんな読み方をするのか、ズーと疑問でした。調べると、「老若」の「若」は漢音が「ジャク」ですが、呉音では「ニャク」だったのです。「男女」は漢音で読むと「だんじょ」ですが、呉音で読むと「なんにょ」だったのです。なので、「老若男女」を「ろうにゃくなんにょ」と読むのは、呉音での読み方だったのです。ガッテン!ガッテン!合点!

 番組によると、奈良時代の末に、桓武天皇が漢音を学ぶことを推奨したのです。そのため、桓武天皇が奈良の平城京から京都の平安京に都を遷す頃にかけて、漢音が広く普及したのです。しかし、それまで呉音に親しんでいた僧侶たちは漢音ではなく呉音を使い続けたのです。その結果、呉音は仏教界の中で、つまり、寺院関係者の間で残り続けたのです。

 清水住職さんは、次のように説明を付け加えました。「今でも仏教のお寺では、いろいろな用語が呉音で使われています。お経も呉音です。ご飯を食べる場所は、漢音では食堂「しょくどう」と言いますが、お寺では「じきどう」と言います。呉音で読む風習が今でも仏教の中には残っているのです。」

 「山」の読み方を見てみると、呉音では「せん」、漢音では「さん」、そして、訓読みでは「やま」と読んでいます。つまり、「せん」という読み方は、もともと呉音から由来していて、仏教と深い関係があったのです。

 大山と仏教とはどんな関係だったのでしょうか。リポーターは、住職さんに取材を続けました。「もともとこの山は『出雲国風土記』には、伯耆国火神岳(ひのかみだけ)と書かれていて、神様が住んでいる聖なる山だったのです。古代から神様として崇(あが)められてきた大山は、信仰の対象になり、山で修行する修験者が現れ、およそ1300年前に大山に仏教が持ち込まれたのです。この修験者たちが「大」いなる「山」として、仏教用語に多い呉音で「だいせん」と呼び始めたのではないかと住職さんは推測されていました。つまり、大山の“せん”は、中国から伝わった呉音の読み方だったのです。

 この取材を通して、リポーターに新たな疑問が生まれました。それは、「中国地方に“せん”とつく山が多いのはなぜなのか」という疑問でした。確かに、鳥取県東部にある扇ノ山(おおぎのせん)も氷ノ山(ひょうのせん)も“せん”と読みます。疑問を解くためにリポーターは深掘りをして調査をしました。すると、驚くことが明らかになったのです。

 「せん」や「ぜん」と読む山は全国に約80座あり、その内、中国地方と兵庫県北部に約70座あり、何と鳥取県内には約30座あるとのことでした。この謎については、鳥取自然に親しむ会の会長、清末忠人さんが、中国大陸や朝鮮半島に近い山陰地方では呉音が定着していたのではないかと推測されていました。

 その他の説では、桓武天皇の通達が都から遠く離れた山陰地方には伝わりにくかったのではないかというものもありました。さらには、中国地方や山陰地方に「せん」のつく山が多いのは、古くから信仰の対象として崇(あが)められている大山への憧れの気持ちから、人々が地元の山にも「せん」とつけたのではないかという説も紹介されていました。

 大山と書いてなぜ「だいせん」と読むのか、私も深く考えたことはなかったのですが、NHKの特集番組で地元のことをまた一つ学ぶことができて本当に良かったです。一つひとつの言葉には、深い歴史が隠されていたのです。

*調べて見ると、音読みには、呉音と漢音だけではなく、唐音(とうおん)もあるそうです。唐音は漢字音の一つで、中国の宋(そう)・元(げん)・明(みん)・清(しん)の時代に、禅宗の僧や貿易商人によって伝えられた中国音のことで、宋音(そうおん)とも呼ぶそうです。また、唐音の“唐”は、中国の意味で唐王朝のことではないそうです。