農家民宿 梨楽庵ブログ

萌え出づる春

風景

梨楽園(リラックスエン)では、ワラビが収穫できます

すくすくと競い合うようにワラビが芽を伸ばします

  ワラビを収穫すると、春の訪れを実感します

   ワラビのおひたしは大好物です

  タケノコも4月の上旬には収穫できます

 山から採ってきた山椒の葉っぱが味の決め手です

梨楽園の桜吹雪の様子です。桜の花びらの絨毯(じゅうたん)が見られます。

  湯梨浜町内の東郷湖畔の芝桜は観光名所です

  東郷湖畔は、ウォーキングに最適な環境です

 あれは中学生の時だったのだろうか、それとも高校生の時だったのだろうか…。国語の時間に和歌を教わった時だったと記憶しています。「石激(いわばし)る垂水(たるみ)の上のさ蕨(わらび)の萌(も)え出(い)づる春になりにけるかも」の一首がお気に入りの和歌になったのです。

 どこに魅かれたかというと、上の句の七五の部分です。「垂水の上のさ蕨の」と続く、七五は、「の」「の」「の」が連続しています。そのことで、軽やかなリズムを生み出していることに感覚的に気が付いたからです。わずか一文字の配列によって、和歌にリズムが生み出されることを知り、非常に驚いたのです。

 魅力を感じた二つ目は、下の句の「萌え出づる」という言葉です。地中から蕨はただ単に芽が出てくるのではなく、萌えるように生えでてきます。芽が出る、生えるなら、ゆっくりと成長する感じがします。しかし、野山に芽を出す蕨は、日ごとにあたり一面に姿を現します。その成長の速さと面的なに広がりに驚いたからこそ、「萌え出づる」と表現したに違いありません。

 三つ目の魅力は、春の訪れを蕨の発見で感じ取った感性です。太古の人たちとは異なり、野山の自然とは離れた場所で生活することが一般的になった現代の人たちは、季節の移り変わりを自然の中から感じ取る感性が身につかなくなっています。季節の移ろいを感じ取る力は、自然の中にどっぷりとつかっていないと育たないと思います。

 最後の魅力は、「なりにけるかも」です。この七文字が、寒い寒い冬が立ち去り、ようやく待ちに待った春が「やってきたんだなあ」という歓喜の気持ちが抑制された表現だからこそ、より際立って感じ取れるのです。

 戦前の昭和8年(1933年)に岩波書店から初版本が発行されている斎藤茂吉の名著『万葉秀歌(下)』では、この和歌を「巌(いわお)の面を音たてて流れおつる、滝のほとりには、もう蕨が萌え出づる春になった、歓ばしい」と解釈されています。この和歌の作者は、志貴皇子(しきのみこ)です。茂吉は、この一首は皇子の代表作であり、万葉集の傑作の一つだと激賞しています。

 梨楽庵の農園、梨楽園(リラックスエン)は、小さな谷間の斜面を切り開き、両親が開墾して果樹園を作り、主に二十世紀梨の栽培によって生計を立てていました。その谷間の果樹園の、東向きの斜面では、毎年、4月上旬になると蕨がたくさん収穫できます。子供のころから蕨の摘み取りを遊びがてらに楽しんでいたので、上述の和歌を学んだ時、脳裏には梨楽園の蕨畑が鮮やかに浮かんできたのです。

 蕨は私も妻も大好物です。ありがたいことに、梨楽園ではフキも収穫できます。梨楽庵から愛車の軽トラを走らせると、30分ほどでタケノコを収穫して帰宅することもできます。旬の山菜に恵まれた故郷の自然に対する感謝の念が歳を重ねるごとに増してきています。