農家民宿 梨楽庵ブログ

吾左衛門鮓(ござえもんずし)

風景

 10月に紹介したアベ鳥取堂の「元祖 かに寿し」は、鳥取県の東部に位置する県庁所在地の鳥取市の代表的な「駅弁」です。一方、城下町の鳥取市に対して、交通の要所に位置し、商都として栄えてきた米子市の代表的な駅弁が“吾左衛門鮓(ござえもんずし)”です。

 私は鳥取県の中央部に位置する湯梨浜町(平成の町村合併前の泊村)が故郷です。高校生活も倉吉市内で過ごしたので、大人になるまでは米子市とはあまりご縁がありませんでしたが、祖父の親類が米子市内に住んでいましたので、幼少の頃、祖父と一緒に道笑町に住んでいた音楽家のおじさんの家に遊びに行った記憶があります。

 ご縁とは不思議なものです。県外の大学を卒業し、山口県の私立の高等学校に勤めていた私は、勤務校の剣道の達人の先輩先生から、たまたま職員室で二人きりになった時、「教職を続けたいなら、ここではなく鳥取に帰ったらどうかね。君は長男だったよね」

 この一言が決め手となり、高等学校を2年間で退職し、無職のまま帰郷したのです。1ヶ月ほど家で過ごしていましたが、5月から米子市内の中学校に講師で勤務する機会に恵まれました。米子市を中心とする鳥取県の西部地域の人情味豊かな空気感の中での生活は、私のその後の人生に少なからぬ影響を与えたように感じています。

 さて、さて、吾左衛門鮓の話からは大きくそれてしまいました。約2年間米子市に住んでいましたが、その当時は、鳥取県内の観光情報には特別な関心はなく、吾左衛門鮓との出合いもありませんでした。良きものが身近にありながら、関心がなければ、気づく見識がなければ、あってなきがごとしとは、まさにこのことです。

 米子市に吾左衛門鮓という美味しい鮓があることは十数年前から知っていましたが、生活圏内のお店では販売していなかったので購入する機会はありませんでした。

 吾左衛門鮓を明確に意識するようになったきっかけは、私が届けた二十世紀梨の返礼として、米子市の中学校でお世話になった先輩の先生から届くお歳暮が吾左衛門鮓になった頃からです。

  「これが、あの、吾左衛門鮓か。うん、さすがに美味しいわ。」今では、吾左衛門鮓は山陰の名物駅弁として有名になり、米子駅や鳥取駅のお店やデパートや大きなスーパーでも販売されていて、手に入れやすくなっています。

 吾左衛門鮓は、米子市内にある老舗企業「米吾(こめご)」の看板商品です。ブログの作成にあたり、米吾のネットやパンフレットを参考にさせていただきましたが、私が拙い文章で紹介するのは恥ずかしくなるくらい見事なホームページであり、パンフレットでした。

 創業明治三十五年 吾左衛門鮓のパンフレットの表書きには、「ゆるぎない、日本の味」と書かれています。「山陰の味」でも「米子の味」でもないのです。“日本の味”だと確固たる誇りを持って宣言しているのです。“ゆるぎない”という言葉にも誇らしさが溢れています。

 さらには、『「吾左衛門鮓」は、醍醐味にある肉厚な“ネタ”、良質な鳥取県産のすし米を使ったまろやかな甘みの“酢飯”、最高級品とされる北海道・道南産の風味豊かな“昆布”が三位一体となった、世界に誇れる伝統食です。滋味深い旨みがしみじみと心に沁(し)み入るような美味しさは、贈答品はもとより、お祝い膳に華を添える逸品として喜ばれております。』と、秀逸な文章で商品説明がなされています。

 読者の皆様、お気づきになられましたか?“世界に誇れる伝統食”と記載されています。日本はもとより、世界を視野に入れた商品開発がなされているからこそ書ける言葉なのです。

 左右に折り込まれたパンフレットを開くと、美味しそうな、いや違います。絶対美味しいにちがいないと思わせる吾左衛門鮓が目に飛び込んできます。まるで名人の寿司職人が目の前で握ってくれたような感覚に陥るのです。これだけ見事で錬りに練られたパンフレットは見たことがありません。

 たかがパンフレット、と侮ってはいけません。このパンフレットこそ、創業明治三十五年、つまり、今年で123年の歴史のある老舗企業、米吾の「ゆるぎない、自信」の表れにちがいありません。吾左衛門鮓は、「鯖」が看板商品で、「蟹」と「穴子」も人気商品です。

 境港で水揚げされた紅ズワイガニが使われています

穴子鮓も逸品、3種類を食べ比べする楽しみがあります

 実は、吾左衛門鮓の容器の絵柄には、遊び心が隠されているのです。「鯖」「蟹」「穴子」を1本ずつ購入しても気がつきませんが、3本1セットで購入すると「あること」に気がつくのです。

 「鯖」を真ん中に置いて、右側に「蟹」を、左側に「穴子」を並べて見て下さい。気がつかれましたか?そうです。3本並べると、絵柄には米子城と城下町、そして「伯耆富士」大山(だいせん)が雄大に描かれているのです。

  「穴子」の左側側面には千石船も描かれています。江戸時代の古い絵図を活用した粋な遊び心です。この発想力こそ「ゆるぎない、伝統の力」なのでしょう。米吾のホームページも完璧です。是非ご覧下さい。

米子市は鳥取県西部地区の中心都市です。人口約14万3千人です(2025年4月現在)