晩秋の観音院庭園①
風景

知る人ぞ知る 名勝 “観音院庭園”
「山陰地方にある名庭園はどこですか?」と尋ねたら、ほとんどの人が島根県安来市にある“足立美術館”と即答されることでしょう。アメリカの日本庭園専門誌による庭園ランキングで、2003年から22年連続「庭園日本一」に選定されており、TVや雑誌等でもたびたび紹介されているので、知名度は抜群です。

“桂離宮”をおさえて堂々たる日本一の庭園です
それでは、「観音院(かんのんいん)庭園は山陰のどの都市にありますか?」と問われて、即答できる方は数少ないのではないでしょうか。観音院は鳥取市にある天台宗の古刹です。
庭園は鳥取藩初代藩主の池田光仲が10年をかけて築造されたと言われています。京都にある世界遺産「二条城」の「二の丸庭園」よりも2年早く、昭和12年(1937年)に国の名勝に指定されています。つまり、知る人ぞ知る江戸時代の代表的な名庭なのです。
観音院庭園についてよく知っているような書き方をしましたが、鳥取県に住んでいながら、私自身が観音院庭園の存在を知ったのは40代の後半頃だったように思います。名前くらいは耳にしていたのかもしれませんが、新規採用教師として鳥取市内の中学校に4年間も勤務していながら、当時は一度も訪ねたことがなかったのです。無知とは恐ろしいものです。
昨年の11月25日(月)、天気にも恵まれたので、観音院へ紅葉見物に出かけることにしました。受付で待っていると、室内で賑やかな笑い声が響いていました。何かやってるのかな?と思いながら室内に入っていくと、若い新婚カップルが披露宴のための写真撮影をしていたのです。
まさか新婚さんと出会うとは思ってもいませんでした。観音院を撮影場所に選んだ理由を尋ねてみようかと思いましたが、やはり失礼なので思い止まりました。
まだまだ知られていないと思っていましたが、若い世代がこの場所を選定するということは、知名度がアップしてきたのかもしれません。例年だと、紅葉のベストシーズンなのですが、残念ながらまだ見頃とは言えませんでした。一週間ほど先に再訪することにして、この日は帰宅しました。
12月2日(月)、この日は一週間前よりもさらに気持ちの良い青空が広がる朝を迎えました。念のために、観音院へ事前に電話で紅葉情報を確認してから再訪することにしました。若奥様の「見頃になっていますよ」の声が期待感を高めてくれました。
駐車場に車を置いて、緩やかな坂道の参道前に立つと、参道の両脇の紅葉は朝日に照らされてより一層美しく感じられました。「今日はいいかもしれないな」構図を考えながら数枚写真を撮りました。平日の月曜日なので、まだ参拝者は私一人でした。

受付を済ませて室内を通って庭園に向かいました。この日の紅葉は見頃でした。観音院は二間続きの書院の室内からガラス戸を全開して庭園を鑑賞することができます。拝観料は600円ですが、地元の銘菓と抹茶を楽しむことができます。この日は老舗和菓子店“亀甲や(きっこうや)”の銘菓“二十世紀梨”で一服いただきました。

開放的な空間で銘菓と抹茶を楽しむことができます

観音院庭園の第一の見所は、書院から庭園を眺めたときの空間の広がりです。広い池の右手奥には樹木を植えない逆扇形の空間を配置しています。書院側から眺めると、池の向こうになだらかな山容が浮かび上がるように計算された造園家の意図が読み取れます。冬になり雪が降り積もると、ここは雪山に姿を変えるのです。

第二の見所は、常緑樹を背景として、庭園の左右にはイロハモミジを配置し、左手は巨木が折り重なるように植林され、右手は横並びに植林し、左右の景観の違いが鑑賞者の目を楽しませるように工夫がなされていることです。

第三の見所は、庭に降りて庭園内を散策できることです。左手側が緩やかな坂道の散策路となっていて、両側から降り注ぐモミジの紅葉を愛(め)でながら歩くことができるのです。

見上げると、赤や黄色や緑色で描かれたモミジの天井画を見ているような感覚に陥ります。丘の上からは、モミジの紅葉越しに、観音院の建物と池を眺めることができるのです。

第四の見所は、今回の訪問で初めて気が付いたのですが、池に映し出された紅葉を見ることができることです。漆塗りのピカピカに磨かれた床に紅葉が映し出されることを“床紅葉”と呼んでいますが、観音院では“池紅葉”を見ることができたのです。

「どんな条件がそろうと池紅葉を見ることができるのですか」と、若奥様に尋ねてみると、「風がなく、池に波立ちがない日で、午前10時頃と午後3時半頃に見られます」と答えられました。
第五の見所は、背後にある源太夫山(げんだゆうさん)を借景として取り入れていることです。第五ではなく、本当はこれが第一の見所なのかもしれません。庭園の背後には遠くの方まで深山が続いています。そして、この日は、山々の後ろには真っ青な青い空が広がっていたのです。
〈 次号へ続く 〉
