なぜ鳥取県は魚介類の宝庫なの?
梨楽庵
鳥取の冬の味覚「ベニズワイガニ」
カニ身は部位により3種類の風味
12月末までしか味わえない「親カニ丼」
世界の三大漁場
鳥取県の沖合は魚介類の宝庫
世界に多数存在する漁場の中でも、特に魚種の多い優良漁場として、世界三大漁場と呼ばれる海域があります。その漁場は、北東大西洋海域、北西大西洋海域、北西太平洋海域の3カ所です。
北東大西洋海域は、アイスランド、イギリス、ノルウェーの海域です。北西大西洋海域は、アメリカとカナダの北東部の国境の沖にあるニューファンドランド島の海域です。そして、北西太平洋海域は、日本列島の太平洋沿いの海域です。これらの海域の共通点は、暖流と寒流がぶつかる潮目となっているため、温かい海域に住む魚と寒い海域に住む魚が共存し、魚の種類が多いことです。
日本列島の北西太平洋海域については、社会科で学習したことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。東北地方の三陸海岸の沖合は、北から流れ込む寒流の“親潮”と南から北上する暖流の“黒潮”がぶつかる潮目となっています。さらには、三陸海岸がリアス式海岸という、ノコギリの歯のように入り組んだ地形となっており、多くの島々も点在しているため、魚にとっては絶好の住環境となっているのです。
リアス式海岸は、山地が海の近くまで迫っているため、森のミネラルをたっぷりと含んだ栄養価の高い山水が絶えず海へ流れ込んでいます。山水と海水が混ざり合うことで、世界有数の植物プランクトンの発生地となっていて、魚の種類は約200種類と言われています。この地域の特産品となっている「かき」や「ほたて」に最適な環境が三陸沖にはあるのです。
日本列島の日本海側に面した立地の鳥取県は水産業がさかんな県として知られています。それは山陰沖の海域も寒流と暖流がぶつかる潮目の海域となっているからです。北海道の日本海側から南下して流れる寒流のリマン海流と“黒潮”が九州南部で分流し、対馬海峡を北上して流れる暖流の“対馬海流”とが流れ込む海域となっているのです。
元水産庁のエリート官僚で、「魚の伝道師」として著名な上田勝彦さんは、「日本海には、水深200m前後に“日本海固有水”と称する、温度や水圧が安定し、ほとんど動かない栄養豊富な海水が常にたまっていることから、そこに生息する魚介類は、餌に事欠くことがなく、常に安定した世代交代を営める」と賞賛されています。さらには、「鳥取県の漁業は、全体として岸から沖合、表層から底層まで、3次元的にくまなく漁業が存在し、春夏秋冬、総じてその魚種は約300種。まさに、“北と南が出会う海”とでもいうべき、日本海僥倖の地なのだ」と絶賛されています。
鳥取県の漁船は山口県の沖合から石川県の沖合にかけて操業しています。世界三大漁場と比べると海域の範囲は狭いのですが、上田さんが言われるように、日本有数の漁場であることは間違いありません。境港市にある境港は、昨年度(2023年)は、北海道の釧路港、千葉県の銚子港に次いで、全国3位の水揚げ量をあげています。マイワシとサバが豊漁だったことが一因です。一昨年度は4位で、過去には全国1位の水揚げ量だった年もあったのです。
境港が誇る日本一の水揚げ量と言えば、“ベニズワイガニ”です。鳥取県では“松葉ガニ”と呼んでいる“ズワイガニ”より安価な値段なのですが、美味しさは甲乙付けがたいものがあります。“ズワイガニ”の刺身は特別な食感ですが、“ベニズワイガニ”のやさしい甘さの風味は一推しです。鳥取県内では、境港では主に“ベニズワイガニ”を水揚げし、鳥取市内の賀露港では主に“ズワイガニ”を水揚げしています。なので、鳥取県の境港市や米子市寄りのスーパーでは“ベニズワイガニ”が、鳥取市寄りのスーパーでは“ズワイガニ”が主に販売されています。
海水温の変化が影響したのか、10年以上前から境港は夏に“クロマグロ”の水揚げ量も増加しています。鳥取の夏の自慢の食材は“白イカ”に“岩牡蠣”ですが、クロマグロのおかげで、中トロや大トロも都会の高級料亭よりも格安で味わうことができるのです。梨楽庵は海沿いにある農家民宿です。豊かな日本海で水揚げされた旬の魚介類をお客様に楽しんでいただけるように努めています。
*上田勝彦さんは長崎県出身で大学時代に漁師の経験があります。卒業後は水産庁に入庁し、2004年~2008年まで境港漁業調整事務所に勤務されています。本庁復帰後も水産物流通と普及の業務でエリート官僚として活躍されています。2015年に水産庁を退職され、「ウエカツ水産」を起業されています。東京海洋大学客員教授に就任され、2020年には「情熱大陸」で取り上げられた著名人です。