農家民宿 梨楽庵ブログ

国宝 三徳山投入堂②

風景

 スタート地点はすでに深山幽谷の雰囲気が漂っています。朱塗りの橋を渡ると、三徳山の登山でしか味わうことができない“ワンダーランド登山”が始まります。樹齢が数百年はあるかと思われる巨木のブナの樹の、網の目のように地面に現れた根っこをつかみ、足場に気を付けながら登るのです。

  入山するや否やワンダーランドの始まりです

巨木のブナの根っこをつかんで、よじ登っていきます

  通称「かずら坂」と呼ばれている場所です

 一般的に多くの登山道は、登山開始直後は緩やかな登山道が続いています。しかし、三徳山登山は、開始直後から、ワンダーです。登山道の大部分は岩場です。岩をつかみ、樹の根をつかみ、はいつくばって登っていくのです。

 一番の難所が「文殊堂(国の重要文化財)」左手の“くさり坂”です。巨岩に取り付けられた5mあまりの鎖をたよりに、ほぼ垂直にちかい岩をよじ登るのです。20年ほど前の前回は、不安感はほとんど感じることがなかった記憶がありますが、今回は恐怖感が襲ってきたのです。

  この岩場の上に「くさり坂」があります

これが「くさり坂」、下から見上げると垂直の岩盤に見えました

「くさり坂」の巨岩の岩盤の上に「文殊堂」が建てられています。この場所に建てようと考えた発想が信じられません

 三徳山では過去、何度も登山事故が発生しています。「もしも手を滑らせたら、もしも足を滑らせたら…滑落事故…かも」一瞬、登山中止の言葉が頭をよぎりましたが、後ろに控えている奥さんがやる気満々のような顔つきだったので、意を決して鎖を握りしめました。

 どうにか登り切り、安堵感に包まれながら目を下にやると、奥さんは私よりも余裕が感じられる足運びで登っていました。実は、10年ほど前にスカイツリーの最上階の展望室に上った時、奥さんはスタスタと歩いていたにも関わらず、私は一歩も動くことができなかったのです。このとき、自分が高所恐怖症であることを自覚したのです。

 文殊堂(もんじゅどう)はお堂の周囲を一周し絶景を楽しむことができます。しばらく進むと「地蔵堂(国の重要文化財)」に辿り着きます。地蔵堂(じぞうどう)もお堂の周囲を回ることができます。奥さんは他の登山客と同様に、笑顔でお堂周りをしていましたが、もちろん私はご遠慮しました。

   「地蔵堂」も岩盤の上に建てられています

   地蔵堂から眺めた大山方面の景観です

 地蔵堂を過ぎると、「鐘楼堂(県の文化財)」が現れます。無事に登山を終えることをお祈りし、ゴオオーンと力強く鐘をつきました。この先にも「馬ノ背」「牛ノ背」と呼ばれる危険な岩場があるので、足元に神経を集中しながら前に進みました。

これが登山道です。道ではなく、岩の上を歩きます

「観音堂(かんのんどう)」も岩窟に建てられています。右手から入って、お堂の周りを通り抜けします。このことを「胎内くぐり」と呼んでいます

   「観音堂(県の文化財)」で胎内(たいない)くぐりを終えて、登山道を右に折れると“国宝 投入堂”が姿を現しました。投入堂は三徳山三佛寺(さんぶつじ)の奥の院で、平安時代後期の作だと推定され、現存する神社建築では日本最古級とも言われています。「投入堂」の由来は、慶雲3年(706年)、役行者(えんのぎょうじゃ)が法力をもって岩窟に投げ入れたと言われ、伝承されています。

 久方ぶりに仰ぎ見る投入堂は、“優美”という言葉が最も相応しいお姿でした。投入堂は、お堂自体に建築美があるのですが、お堂を支える長さの異なる柱の絶妙な配置が、さらなる優美さを演出しているように感じられました。

 投入堂を投げ入れた、いや、建築した設計者は岩窟の形状を綿密に観察し、安全面だけを考慮したのではなく、柱をどこに配置すれば優美さを生み出すことができるのかと、そこまで計算し、熟慮したのではないでしょうか。

706年、役行者(えんのぎょうじゃ)が法力(ほうりき…仏法を修行して得た不思議な力)をもって岩穴に投げ入れたと伝承されています

 今回で見納めになるかもしれないという思いを胸に秘めながら、投入堂をじっくりと拝観し、下山しました。登山は往復1時間50分ほどで終えることができました。

 日本遺産ソムリエさんたちが「これから訪れてみたい日本遺産」の第1位に推したのは、“国宝 投入堂”については知識としては熟知していながらも、鳥取の地がソムリエさんたちの居住地からは遠方にあるために、他の日本遺産を優先的に訪れていたからではないでしょうか。

 私は確信しています。ソムリエさんたちが日本一危ない国宝を拝観したら、次回の日本遺産アワードでは、「実際に訪れてみて魅力的だと感じた日本遺産」部門でも必ずや第1位を獲得するに違いないことを。

 満足感一杯で帰宅してから、心配事が浮かんできました。昨今、世界遺産や日本遺産などの有名な観光地ではオーバーツーリズムの弊害が叫ばれています。もしも三徳山が日本遺産アワードの両部門で第1位を獲得したならば、観光客が押し寄せ、オーバーツーリズムに巻き込まれることが予想されます。

 今回、登山を体験し、以前と比べて登山道の維持管理が大変困難な状況にあることを痛感しました。将来、もしも想定以上の登山客が訪れたならば、登山道は荒れ果て、入山規制をしなければならない状況がやってくる予感がしました。

 そうなると、投入堂は「日本一危ない国宝」に加えて、「日本一拝観することが難しい国宝」として併称されるのではないでしょうか。私の心配事が杞憂であることを願っています。“国宝 三徳山投入堂”に強い憧れをお持ちの方は、是非ともお早めに鳥取旅行を計画されて、旅程に投入堂の拝観時間を組み込むことをお勧めします。

〈注意事項〉三徳山は修行の場であり、場所によっては危険な箇所があります。なので、受付は必ず2名以上です。1人では入山できません。参拝受付は午前8時から午後3時までです。入山手続きと下山手続きは必ず行ってください。