農家民宿 梨楽庵ブログ

小川氏庭園 環翠園②

風景

 環翠園は“池(ち)泉(せん)回遊式(かいゆうしき)庭園(ていえん)”です。“池泉回遊式”とは、中央に大きな池を造り、池の周囲には園路を巡らせ、散策しながら庭園鑑賞ができる工夫がなされている庭園のことです。

 環翠園の池の水は、園の直ぐ側を流れる鉢屋(はちや)川から水を引き込み、池の中の“亀島”を巡らせ、再び鉢屋川にもどしています。小鴨川(おがもがわ)から引き入れた鉢屋川は清流です。だからこそ、池の水も透明感があり、錦鯉も気持ちよさそうにゆったりと泳いでいました。

 Nさんの説明によると、令和5年度の国土交通省の調査により「水質が最も良好な河川(一級河川)」が全国で17河川発表されました。鳥取県からは中部地区を流れる「天神(てんじん)川(がわ)」と「小鴨川(おがもがわ)」の2つの河川が選定されたのです。水質調査の対象河川は全国に160河川あるということですから誇るべき結果です。

 パンフレットによれば、環翠園は東西約32m南北約40mの広さなので、大規模な庭園ではありません。しかし、池の周囲に築かれた築山(つきやま)の高低差を利用し、園路が巧みに配置されているので、散策しながら異なる景観を楽しむことができるのです。

 園路は、単なる散策路ではありません。園の南側には茶亭「南山荘」と「楽水庵」が配されており、環翠園は茶室に設(しつら)えられる“露地(ろじ)”の茶庭として作庭されています。

 そのため、園内には趣の異なる石燈籠や蹲(つくばい)がたくさん配置され、露地を構成する「飛石(とびいし)」も様々な形状の石が組み合わされており、飛石に目線を向けると飽きることがありません。

 神戸から依頼を受けた庭師・巽武之助は樹木の種類と配置に気を配ることはもちろんですが、飛石の選定と配置にはより神経を使ったのではないでしょうか。

 露地を歩いていると、細長い大きめの石が配されています。Nさんの説明によると、この石は庭園内の景色を眺めるために最適な場所に置かれているということでした。調べてみると、「物見(ものみ)石(いし)」と呼ばれる飛石でした。

 趣向が凝らされた環翠園の景観美には驚くことばかりでした。特に、打吹山を借景とした茶亭「南山荘」の構成には感服しました。現在の倉吉市内の中心街から眺めると、南西方向に位置する打吹山はミニ富士山のような形状で、倉吉市のシンボルとなっています。

 しかし、環翠園の池の北側に配置された物見石から眺めると、打吹山は南側に位置し、3つの山が連なる形状をしています。そして、「南山荘」の屋根三棟が連なる形状は打吹山の形状を模したデザインであることは間違いありません。

  南側から見た「打吹山」と「南山荘」の景観

 庭園内の借景として背後の山並みを取り入れた庭園は全国に数多くありますが、庭園内の中心的な建物である茶亭の屋根と借景を組み合わせた斬新な趣向はここだけの発想なのかもしれません。

 園内を回遊後は、茶亭「南山荘」に入館し、展示されている絵画や彫刻、陶芸作品等を鑑賞し、季節の和菓子と抹茶を一服いただきました。最後に、茶室を見学し、南山荘の玄関を出て、東門に通じる簡素なデザインの露地を通り帰路に着きました。

 庭園鑑賞は、一枠90分の時間設定でしたが、案内ガイドのNさんの名解説に引き込まれ、時が経つのはアッという間でした。身近にありながらその存在さえ知らなかった環翠園でしたが、一般公開されたことで全国レベルの文化財に触れる機会を得ることができ、とても感謝しています。

 まだお出かけになられていない方は、是非とも足を運ばれることをお勧めいたします。名解説を聞きながら、園内をゆっくりと散策すると、間違いなく、充実したひと時を過ごすことができます。

〈 追記 〉

 今年の3月20日、「文化財活用の宿 7月17日に開業」の記事が地元紙に掲載されていました。観光を通してまちづくりを行う事業会社「風のヘリテージ」(京都市)が、鳥取県指定保護文化財「小川家住宅」と国登録有形文化財「旧高多家住宅」を富裕層向けの宿泊施設として整備し、両施設を7月17日にオープンすることを発表しました。

 ブランド名は「風の 倉吉」で、客室数は小川家が6室、旧高多家に5室設けられるようです。文化財での宿泊を通した「非日常の癒(いや)し体験」がアピールポイントのようです。

 開業すると環翠園の見学ができなくなるのか、現時点ではわかりませんが、できれば、宿泊者以外の庭園鑑賞は続けてほしいと願っています。