打吹山の天女伝説①
梨楽庵
鳥取県東伯郡湯梨浜町の東郷池の南に「羽衣(うえし)石山(やま)」があります。この山は、その昔「崩(くずれ)岩山(いわやま)」」といっていた、とても険しい山です。
昔、一人の農夫が、この山の頂上近くを通りかかると、何やら妙なる香りが漂ってきました。そこで、彼は不思議に思って辺りを探してみると、高さが五丈(じょう)(約15m)ほどもある大岩(おおいわ)の上に、柔らかで美しい衣が干してありました。さらに驚いたことには、その大岩の近くの湧き水(お茶の水井戸)で、美しい女性が一人、水浴びをしていました。

農夫はこれを見て、「あの女は、この世のものとは思われないほど美しいが、あれはきっと天界に住む天女というものにちがいあるまい。とすると、あそこに置いてある美しい着物は、天(あま)の羽衣(はごろも)ということになるのだろうか…」と考えて、その女性が水から上がって来ないうちに、大岩に近づき、岩の上に干してある羽衣をそっと取って隠しました。
さて、水から上がって来た天女は、脱ぎおいた羽衣を探すのですが、辺り一面どこにもないので、たいへん驚きました。それに、この羽衣がないと、天界にはどうやっても帰ることができません。
そこで、天女は、近くにいた男が羽衣を隠していると思い、その男に一生懸命羽衣を返してほしいと頼みました。けれども、それはまったくかないませんでした。それどころか逆に天女は説得されて、仕方なくその男と結婚してしまいました。
そして、何年かたつうちに、下界の人となった天女には女の子が二人生まれました。しかし、夫の農夫は依然として、「天(あま)の羽衣(はごろも)」を箱の中に隠して鍵をかけ、絶対に妻の天女には見せませんでした。ですから、天女は羽衣はおろか、その箱のあり場所さえ知りませんでした。
ところで、農夫と天女のあいだに生まれた二人の娘は、少しずつ成長していきました。そんなある日、母親の天女は、子どもたち二人を呼んで、「天の羽衣」についてのいわれを説き聞かせ、自分はこれを昔から探していることを告げました。
すると、子どもたちは、羽衣に関する深いわけは知りませんでしたが、父親の平素の行動から、羽衣と、それが入っている箱と、鍵のあり場所だけは知っていました。
そこで子どもたちは、母親をその場所に案内し、その鍵を使って箱のふたを開けてみると、中から美しい「天の羽衣」が出て来ました。母親の天女は、すぐにこれが自分の昔の羽衣であることを知り、飛び上がらんばかりに喜びました。
そして、母親の天女は思わず自分の身体(からだ)にその羽衣をはおってみると、なぜか身体が急に軽くなって空中に浮き上がってきました。それと同時にどうしたことか、今まであった親子の情愛はたちまちにうすれ、天女は子どもたち二人を地上に残したまま、ゆっくりと天界はるかに飛んで行きました。
( 次号へ続きます )
